イシヅヤシン OFFICIAL BLOG「叙情詩の種」

日々の出来事や物語、歌詞などを書きます。

【物語】10/2のワンマンライブに来てくれる全ての方へ。

 


「はぁ、、困ったな、、どんどん暗くなっていく。」

私は旅の途中、森の中で道に迷ってしまいました。

「近道だと思って己の直感を信じたのが間違いだった、、これじゃあ来た道すらわからないぞ。」

私はどんどんと不安になり、闇雲に歩きました。すると、遠くの方から賑やかな声が聞こえてきたのです。

「こ、これは…」

 

声のする方に歩いていくと、そこには大きなテントと沢山の人たちがいました。

 

「いやー、この瞬間の為に生きてるっ!」
「ガハハハ、飲め飲め!夜はこれからだ!」
「うぃー、、ひっく、、楽しいらぁ♫」

宴は大盛り上がりです。

私は自身が旅人であることと、道に迷ってしまったという事を告げると、仲間に入れてもらいえることになりました。

 

お酒を勧められたので代金を払おうとすると「あ?お金なんていらねーよ、、、そんなもん持ってたって無駄無駄…ここじゃなーんの役にもたたないぜ…ひっく。」と酔っ払いが言います。

 

「しかし…、では何か代わりに私にできる事はありませんか?」と聞きました。

すると、隣にいた紳士風の男が「そうですね、では、このお金は一旦私がお預かりしましょう、、その代わりと言ってはなんですが、あなたには今から私が話すいくつかの夜噺を聞いていただく…というのはいかがでしょう?」と優しく言うのでした。

 

「聞くだけでいいのなら、、、。」

私はすでにお酒が入っていたこともあり、特に深く考える事もなく紳士風の男の提案を受け入れました。

 

「ありがとうございます。」

「では早速、、まずは…そうですね、、、その昔、欲に溺れて悪魔に魂を売ってしまった青年の話をしましょう。」

 

 

悪魔に魂を売った青年

 

彼はずっと孤独でした。
どんなに良い行いをしても誰にも気付いてもらえず、その存在すらほとんど知られていませんでした。

貧しい家で育った青年は、若い頃から仕事をしていました。しかし、学校にも行っていない彼が働ける仕事は限られており、なかなかお金も貯まりません。

 

「はぁ、、今日も誰とも話さなかったな…。」と肩を落としながら帰っていたある日の夜、彼は1人の男と出会います。


その男は背が高く笑い声が特徴的で、なんでも見通しているような眼差しをしていました。

「やあやあ、青年。君の夢はなんだい?」
男は不敵な笑みを浮かべて青年に語りかけます。

「僕は誰かに認めてもらいたいんだ、、毎日朝から晩まで働いても、誰も僕に気づいてくれない、、、寂しいんだ。」


青年はこれまでの苦労を思い浮かべ、涙ながらに訴えかけました。

「ふふふ、ではその願い、私が叶えてやろう。」

「え?そんな事ができるの?」

「もちろんだ。」
「だが、ひとつ条件がある。」

「条件?」

「あぁ、そうだな…青年、君の心のカケラを少しもらおう。」

青年には意味がわかりませんでしたが、それくらいでいいのなら…と承諾しました。

すると男は呪文のような言葉を唱え、姿を消しました。

 

すると次の瞬間、青年の周りに沢山の人が現れました。そして口々に青年の名を呼び、「いつもありがとう」
「君は良い奴だ」
「素敵よ」
と沢山の言葉をくれたのです。

青年は嬉しくなって舞い上がりました。
「やった、、やっと僕のことを認めてもらえた…」

するとあの男が再び目の前に現れました。
「やあやあ青年、夢が叶った気分はどうだい?」
男は依然として不敵な笑みを浮かべています。

「最高です、、あなたのおかげだ、、本当にありがとう!」
青年は目一杯の感謝を伝えました。

 

すると男は「他に何か願いはあるかな?」と
再び青年に問うので、青年は「では…」と、いくつか願いを告げました。

「お金持ちになりたい」
「美しい妻が欲しい」
「王様になってみたい」

 

すっかり気分を良くした青年は次々に男に願いを伝えました。

 

男は頷き、再度心のカケラを要求しました。
青年は特に気に留めず、承諾します。

 

すると、また願いがどんどんと叶っていきます。お金持ちになり、美しい妻がいて、大きな国の王様にもなれました。

しかし、青年の様子が少し変です。
これだけの願いが叶ったのにも関わらず、全く喜んでいないのです。

 

あれだけ望んでいた事なのに、、、一体何が起きたのでしょう?

 

 

…そう、彼は心を失っていました。
調子に乗って心のカケラをいくつも渡してしまった事で、カケラはいつしか大きな塊になっていたのです。

喜びも哀しみも、ありとあらゆる感情を彼は失ってしまったのでした。

 

どんなに夢や願いが叶ったところで、それを感じる事ができなければ何の意味もありません。

 

すると男がまたやってきて

「青年、君は立派に働いていた。」

「だからこそ、私は君の夢を叶えたのだ。」

「だが、君は次々に欲が出てしまったね、残念だよ。」そう言い残して去っていきました。


そこに残ったのは空っぽになってしまった青年と、耳に残る男の不敵な笑い声だけなのでした。

 

 

 

 

「さて、いかがでしたかな?この物語は。」
語り部をしていた紳士風の男が私に物語の終わりを告げました。

「怖いけど、非常に面白いお話でした、、欲とは恐ろしいものですね…。」私は答えます。

 

すると紳士風の男は「確かに欲には良い面も悪い面も混在しますね。」


「そうだ、では次は人間の醜い欲に振り回された犬のお話をしましょう。」といって次の話を始めました。

 

 

捨てられてしまった犬

 

「迷子の迷子の仔犬ちゃん〜♫って、何を歌ってるんだ俺は。」
夜の街を歩く犬が、やさぐれながらそう呟いた。

犬には首輪がついている。つまり、飼い犬だ。しかし周りに飼い主らしき人は見当たらない。

犬は当てもなくただ歩いていた。

 

「はぁ、、お腹空いたな。」
「誰か…ドッグフードでもくれないかな」

 

数日前、犬の飼い主であるジェシー一家は揃って夜逃げをした。
借金で首が回らなくなった様子で、昔は高級な肉だった犬のエサもいつしか安いドッグフードに変わっていった。

舌が肥えていた犬は、ドッグフードの安っぽい味が嫌いだった。
ドッグフードを拒めば、きっと前のように高級な肉を出してくれるだろう…と思っていたが、現実はそう甘いものではなかった。

夜逃げをする際、犬はリードを外され置いてけぼりにされた。

しかし犬にはその現実は理解できず、すぐ帰ってくるだろう…と軽く考えていた。

だが待てども待てどもジェシーたちは帰ってこない。
犬は、脳裏に浮かぶ"捨てられた"という言葉を必死にかき消し、飼い主を探しに行くことにした。

自慢の鼻も、街の色んな匂いにかき消されてうまく使えない。お腹も空いたし、もう歩くのも辛い…。

「あぁ、、やっぱりそういう事なのか…なんて簡単に受け入れてたまるか。」と、犬は必死に頭を振った。

犬は歩いた。辛くても苦しくても歩いた。
愛を探しながらただひたすらに歩いた。
空腹も限界に達していた。
ドッグフードでいい、、、安物の不味いドッグフードでいいから食べさせてくれ、、そう願うばかりであった。

疲れきっているからか、もう目の前の光景が夢なのか現実なのかの区別もつかない。

すると、前方から懐かしい声が聞こえたような気がした。
「ジョン!迎えにきたよ!」
ジェシーが目の前にいる。

 

犬は走る。
不思議と疲労感はなく、思いっきり走れた。
先程まで極限だった空腹も感じない。

両手を広げて待つジェシーは、あたたかそうな光に覆われている。

そして犬は…ジョンは、その光に向かって飛びついたのだった。

 

 

 

 

 

「この物語はハッピーエンドか、それとも哀しい物語か…あなたはどう思いますか?」
紳士風の男が私に問いました。

「私は…哀しい物語だと感じました。」おそらくだが、犬は死んでしまってその夢の中で自らが望んだ幸せな光景を見ていたのだろうと感じたからです。

しかし紳士風の男は「おや、そうですか。」と少し意外そうな顔をしました。

「この物語を幸せにするかどうかはあなた次第なのです。」

「あなたの心の中で、ジョンを幸せにしてあげる事ができれば、きっとジョンだって幸せだと思いますよ。」

紳士風の男は優しい笑みを浮かべてそう話しました。

「では、次の物語をお届けしましょう。」

「あなたは今、恋人や意中の方はいますか?」


突然の質問に私は焦りました。

すると紳士風の男が続けます。
「愛とは複雑で、さまざまな形があります。」
「これからお話する物語は、少し切ない愛のお話です。」

 

 

白雪姫の小人

 

「あーぁ、ダメダメ、、小人が7人も揃って泣いてたってどうせ姫は目覚めないぞ?」

朝起きたら姪っ子が一生懸命「白雪姫」のDVDを見ていたので、俺はちょっと意地悪を言ってみた。

 

先日から姉夫妻が仕事で家を空けなければいけないとかで、娘を預かってくれと一方的に押しつけられた。

俺はちょうど仕事がひと段落して暇をしていたので軽い気持ちで請け負ったが、今は後悔している。

とにかくこのくらいの女の子は何を考えているのかわからない。。昨日は散々ゲームをしていたのに、今日は一心不乱にDVD鑑賞だ。

 

"白雪姫"

俺はこの物語が嫌いだ。
その理由は俺が幼稚園の頃にまで遡る。

 

お遊戯会でこの白雪姫をやる事に決まった際、俺は王子様役に立候補した。
理由は単純で、既に白雪姫役に決まっていたリカちゃんの事が好きだったからだ。

当時は今みたいに王子様が5人…なんて時代じゃなかったので、選ばれるのは1人だけ。高倍率の激戦区だった。

どうやって決めたのかは覚えていないが、残念ながら俺は選ばれなかった。
そして、特に立候補していない小人役に回されたのだった。

この時俺はわずか5歳にして、この世には選ばれる人間と、そうでない人間がいるということを知った。そして俺は選ばれない側の人間だった。

あの日以来、俺は白雪姫が嫌いだ。

今の会社に入ってからずっと好きだった咲ちゃんも、やっと2人で食事にいけるところまで距離を縮めたのに、あっさりと婚活アプリで知り合ったハイスペックな男と結婚してしまった。

 

「俺はこの歳になってもどうせ小人ですよ、、王子様になれないただの小人ですよー。」

そう言うと姪に「しー!静かにっ!」と怒られた。

「そんな冷たい事言わないでくれよー!」とおどけながら後ろからくすぐると、姪はキャハハっと笑う。

それでもすぐに「やだ!邪魔しないで!これ見るの!」と言う頑固な所は姉に少し似ている。

「でも、なんでそのシーンばっかり見てるんだ?クライマックスでもないだろ、そこ。」

姪はさっきから何度も同じシーンを巻き戻しては繰り返し見ていた。

それは白雪姫と小人が楽しそうに歌っているシーンだ。

「だって、この映画で1番ここのシーンの白雪姫が楽しそうだから。」姪は真っ直ぐな目でそう言った。

 

「おじさん、昔幼稚園で小人さんやったんだよ。」と教えると、姪は目を輝かせて「うそ!すごい!どの小人?」と聞いてきた。

 

それからお遊戯会の話や、好きだったリカちゃんの話をしていたら、遊び疲れたのか姪は眠ってしまっていた。

 

すると携帯電話が鳴った。
最近知り合った子からの着信だ。

姪が寝てるので小声で電話に出る。
事情を説明し終えると、電話の先で笑い声が聞こえた。その子が大声で笑っているのだ。

 

「私は小人ってすんごいかっこいいと思うよ。」
「だってさ、漢じゃん!愛する姫を目覚めさせようと努力して、それでもダメだったから恋敵でもある王子様に任せて、2人の幸せを願う…くぅー、私なら速攻惚れるわ。」

電話越しに相手の興奮が伝わってくる。

 

「じゃ、じゃあさ…もしよかったら俺と…」

「ねぇ、誰と話してるの??」
このタイミングで姪が目を覚ました。

電話の向こうではやはり笑い声が聞こえる。

 

なんだか俺らしいなぁ、、、と軽くため息をついた後、俺も笑った。すると姪も釣られて笑っている。

これでいいと思った。
王子様になりたかった小人。
そんな自分を好きになれるよう、頑張ろうと思えたのだった。

 

テレビに目をやると、相変わらず白雪姫が小人たちと楽しそうに歌っていた。

不思議とこれまで見てきた白雪姫よりも、ずっと楽しそうに見えたのだった。

 

 

 

 

「いかがでしたでしょうか?愛とは儚くも尊いものですね。」という紳士風の言葉でようやく私は我に返り、物語に没頭してしまっていたなと感じたのでした。

私は「とても切なく、それでも暖かい物語をありがとうございます。私もあまり選ばれない側の人間なので、気持ちは痛いほどわかります。。」と、紳士風の男に告げました。

すると紳士風の男は「いえいえ、まだお礼を言うには早いですよ。次のお話もぜひお楽しみください。」

 

一息つくと紳士風の男は少し声色を変えて私に問いました。
「さて、あなたはタイムマシンがあったら過去と未来、どちらに行きたいですか?」

 

 

タイムマシン

 

 

「うわ、、見つけちゃった。。」


たまたま通りかかった空き地にそれはあった。

 

いきなりだが、皆さんは"タイムマシン"と言われたらどんなものを想像するだろうか?

 

ドラえもんに出てくるような板に乗るタイプのやつ?
それともドラゴンボールに出てくるようなカプセルみたいなもの?
はたまた、バックトゥーザ・フューチャーみたいな車?

 

残念だけど全部ハズレ。

正解は、マッサージチェアだ。


前から薄々怪しいとは思っていたんだ。
やたらとボタン多いし。

そのマッサージチェアが空き地に置いてあった。
誰かが放置した粗大ゴミかな?とも思ったが、よく見るとメーカーのロゴが「Time machine」と書いてある。これは間違いなくタイムマシンだ。

 

僕は早速使ってみる事にした。
電源なんてないが、タイムマシンだからそれは関係なかった。

一通り揉み・ほぐし・叩きを終え、いよいよタイムトラベルボタンを押した。

すると目の前に3Dの液晶画面が浮かび上がる。SF映画でよく見るやつだ。
しかし、浮かび上がる言葉は「カコ?ミライ?」と、雑なものだった。

僕は未来を選択した。戦国時代の武将も見てみたかったが、命の危険や歴史が変わる事を恐れて未来にしたのだ。

すると、「ドノクライミライ?」と再び液晶画面が現れる。

僕は5年後と選択した。5年後の僕は30歳。おそらく結婚をしているだろうと思い、その相手を見に行く事にしたのだ。

「ワカッタ、ツカマレ」と雑な文字が浮かんだ後、タイムマシンは起動した。
全身を強く固定され、物凄い速さで振動している。

僕はそのあまりの気持ちよさに眠ってしまった。

目が覚めるとそこは知らない土地だった。
なんとなく見覚えがある風景なのだが、僕の記憶とはどこかが違う。

 

「なるほど、これが未来か。」
僕はあっさりと受け入れ、早速未来のお嫁さんを探しに行った。

 

「おっと、念のためバレないように変装しよう。」万が一未来の僕や家族、親しい友人に会ってしまったら色々とめんどくさそうなので、ドンキで買ったサングラスと付け髭をした。

 

僕の住むアパートに着いたが、表札には僕の名前がない。

「しまった、、、5年も経てば引っ越しもしてるか…結婚してたら尚更だ。」

唯一の手がかりをなくした僕は途方にくれてマッサージチェアがある場所に帰り、腰掛けた。

 

「ドウシタ?」マッサージチェアが言う。

「いやぁ、未来の嫁を見たくて唯一の手がかりだった僕のアパート行ったんだけど、もう引っ越しててさ。」

「じゃあ今のお前の住所教えようか?」

「え?そんなことできるの?」

「当たり前だろ、タイムマシンなめるなよ。」

「助かる!じゃあ早速…って、、、、

 


、、、、しゃべれたんかい!!!!」

「じゃあこれまでのあの雑な液晶画面とかなんだったんだ!てか、しゃべれるにしてもなんでそんな馴れ馴れしいの?僕の事お前っていってるじゃん、、え?何様??」

「タイムマシン様だ。」

「あぁ、うん、、そうっすね、、あの、、、じゃあ、、お願いします。。」

「ちっ、、、、承知した。」
「(今舌打ちした?マッサージチェアなのに舌打ちした??)よ、よろしく。」

 

また全身を強く固定され、例の振動が起こる。またまた眠りについた僕が目を覚ました先に見えたのは立派な一軒家だった。

「ここが、、我が家?え?僕こんな金持ちになってるの?」

「あぁ、お前金持ちの女と結婚したぞ。」

「まじかよ、、(僕の力ではないのか)どんな人だろう、、、」

僕は恐る恐る部屋の方を覗いた。
すると、そこには掃除をしている女性の姿が見えた。

「あ、あの人は…え??」

その女性は知っている人だった。
まだ数回しか会った事はないが、なんとなく波長が合うなぁと感じていた人で、、でもまさかこういう未来になるなんて全く想像していなかった。

だってフルネームすら知らないし、連絡もほぼ仕事に必要なやりとりしかしないくらいの仲なのだ。

僕は見つからないように隠れながら彼女を見つめていた。

 

「綺麗だ。。。」思わず言葉が出るほど、5年後の彼女は綺麗だった。

「お前、キモいな。」
マッサージチェアが冷静な声で言う。

 

「おまっ、、、いいだろ?僕の奥さんなんだから!」僕は顔を真っ赤にして言い返す。

「はいはい、お熱いですなぁ。」

こいつ、なんでそんな言葉までインプットされてるんだ、、、と感じながらも、美しい妻ができる未来にワクワクしていた。

 

「あとお前、さっきからコソコソ隠れたりダセェ変装してっけど、相手からは見えてないからな。」

 

「・・・」

 

「見えちゃうと色々影響でるから、こっちからのみ、一方的に見ることができてなんの関与もできないようになってるから。」

 

「・・・」

 

「だからそのダセェ変装、しなくていいぞ。」

 

 


「・・・早く言え!!!!!」

 

 

僕は今まで生きてきた中で1番の大声を出した。
もちろん、未来の嫁には聞こえていない。

 

「よし、帰るぞ!時間切れだ。タラタラするな。」

「ぐっ、、、(こいつ絶対あとでスクラップにしてやる)」

 

 

現在に戻ってきた僕は、早速彼女に連絡をして会う約束をした。

「いきなり結婚してください、、、は重いだろうから、まずはお付き合い…だな、よし。」

 

彼女がやってくる。
「あの、、、僕とつ、、つき・・・ん?」

気のせいだろうか?彼女の隣に男がいる。
距離も近く、親しげだ。

お、お兄さん??とも思ったが、兄妹の距離感とも違う。

ま、まさか…


すると彼女が言う。
「あの、すみません、、今日久々に彼が休みで遊びに来てて、もしよかったら3人でご飯食べにいきませんか?」


彼 、、、、かれ、、、、KARE、、、、

僕の恋は儚く散った。

なんとなく断れずにそのままなし崩し的に3人でご飯を食べ、会計は彼氏さんがいつの間にか済ましているというスマートさを見せつけられ、惨めという言葉は僕の為にあるのだろう…という所まで落ち込み、家に帰った。

 

 

「あーっはっはっっ、、、ひーっ、、、はっはっはっ、、お腹痛い、、ははははは。」

今日の出来事を報告するとマッサージチェアが爆笑した。

 

マッサージチェアにお腹なんかないだろ!」というくらいが精一杯の反論で、「もう終わりだ、、人生の転落だよ!あー!!!」と言って僕はただただヤケ酒を呑んだ。


「いいか?未来ってのは自分で作るもんなんだよ。だから楽しいんじゃねーか。決まり切った未来なんて何が楽しい?」マッサージチェアが急にまともな事を言い出す。

「そ、そうか、、、確かにマッサージチェアの言う通りだ。」

「今日はもう寝て、また明日から頑張れ!」

「あぁ、、、そうする、、僕…彼女を諦めない!!」

「あぁ、そうだ、その意気だ!」

なんか釈然としない部分はあったが、とにかく今日は寝ることにした。

 


さて、ここで、少し時間を巻き戻してみよう。
彼が鼻の下を伸ばしながら未来の嫁を見ている所まで。

 

…はい、ストップ。
この数分後、彼は現在に戻るわけだが…
この奥さんのその先が気にならない?

 

もう少しだけ覗いてみよう。

 

「ただいまぁー。」彼女が待つ家に男が帰宅した。

「あ、おかえり!今日もお疲れ様。」
彼女は嬉しそうな顔で愛想良く接している。

 

しかし待てよ…。この旦那さんの後ろ姿、、、あれ??この人…

 


・・・・あ!!!!

 

 

 

 

「いかがでしたでしょうか?この物語も楽しんでいただけましたか?」
紳士風の男は相変わらず落ち着き払った声で問いかけてきます。

「き、、、気になる終わり方…。」
私は完全に紳士風の男が話す物語に夢中になっていました。

「ま、まさか…そもそも未来の奥さんじゃなかったなんて事は…」私が恐る恐るといった感じで聞くと、

「さぁ、どうでしょうね。」と紳士風の男は含み笑いで答えた。

 

「さて、いよいよ次が最後のお話です。」

「え?もう最後ですか?」
私はすっかりこのストーリテラーの虜になっていました。最後は一体どんな物語だろう…と、ワクワクが抑えられません。

「最後にお話するのは、、そう、、あなたの物語です。」

「・・・えっ?」

 

あなたの物語

 

"10月2日、金曜日。今日最もラッキーな運勢の方は…魚座のあなたです!"

 

「おい、そこは天秤座だろ。。」

なんとなくつけた朝のニュース番組で占いをやっていた。いつもなら所詮占いか…と思う程度だが、今日は違う。

今日は僕の33歳の誕生日だ。
なのに占いが1位じゃないなんて…。

 

ちなみにこの番組の占いは、2位〜11位までを先に出し、最後に1位と最下位を発表する。

 

つまり、そう…今日の僕の運勢は最下位ってわけだ。

 

「ラッキーアイテムは…げっタバコかよ、、禁煙者に随分と挑発的だな。」

 

禁煙してもう4年になる。
元々1日2箱は吸っていたが、風邪を引く度に気管支炎になるのでやめたのだ。

今ではよくあんな臭いものを吸っていたと思うほど、タバコへの執着は無くなっていた。

 

支度をして会社へ向かう。
僕はずっとメジャーデビューを夢見て音楽活動をしてきたがなかなか芽が出ず、30歳になったタイミングでプロになる事を諦め就職した。

 

大人になってらからずっと音楽だけやってきた人生だったので、就活にはかなり苦労した。

目立った特技や資格もなく、仕事の経験といったってバイトを何個かやった程度だ。

 

それでも、ダメ元で受けた広告会社の面接でたまたま動物占いの話になり、自分は落ち着きのあるペガサスだと告げると、「なんか発想が面白そう。」という理由だけで採用してもらえる事になった。

 

最初の1年は地獄だった。
右も左もわからず、10歳近く年下の先輩に「なんでこんな事もわからないの?マジで今までよく生きてこれたね。」と罵られる事も珍しくなかった。

酷い時には酒の席で「あのさ、、、あんた音楽しかやってこなかったって言い訳するけど、なんかそれ美談みたいに言うよね?」

「それってただそんな自分に酔ってるだけで、実際音楽しかやってこなかったのにその音楽ですら成功してないって、、、マジで終わってるからね。」

と言われた事もあった。


悔しいが、図星だった。

パワプロの選手を育成するサクセスモードで、ホームランバッターを作る為にパワー強化に全振りしたにも関わらず、代走でしか使われない…みたいなものだ。

ん?わかりづらいかな?

ようは、他を捨ててそこにかけてたはずなのに、それを全く求められなかったって事だ。

 

人に求められる存在になるというのはとても大変な事だ。この会社にきても、それは大きな壁となって僕の前に立ちはだかった。こんなにボロボロになって、それでも自分自身の中心に入れてる気がせず、誰の人生歩んでるんだろう?なんて考える事もあった。

 

それでも、仕事は辞めずに続けた。
逃げる事は簡単にできただろうけど、逃げた先に音楽を置きたくなかったからだ。

会社から逃れて、やっぱり僕には音楽しかない!なんていう未来はなによりも望んでいなかった。

 

なんとか今の職場に食らいついて3年が経ち、ようやく仕事にも多少慣れてきて、年下の先輩から罵られる事も無くなり…はしなかったが、少なくはなった。

 

休憩時間になると、会社のビルの屋上に行く事が日課だ。

ここから見える景色が好きで、ここだけが唯一の癒しの場所だった。

 

「そうだ、ラッキーアイテム…」
信じたわけじゃないが、なんとなく駅前のタバコ屋が目に止まったので久々にタバコを買ってみたのだ。

4年ぶりなので肺に入れると咽せると思い、ふかすだけにした。

何回かタバコをふかしていると、なんだか映画のエンディングが流れそうな景色だなと感じた。

「ははっ、エンディングか…まだ何も始まってすらないのに。」

すると次の瞬間、急に涙が溢れてきた。

「あれ?なんで、、、」

止めようと思っても止まらない。

これまで色んな経験をしてきて様々な感情は知ってるつもりだったが、初めての体験だった。

 

「諦めたくない。」

気がついたらそう呟いていた。

でも、何を?

仕事?夢?それとも、人生?

 

きっと少し疲れてるんだな、、、僕は無理矢理そう解釈することにした。

 

ふかしていたタバコが短くなったので灰皿に捨てると、そのタイミングで友人から連絡が入る。


2番目の子供が無事産まれたそうだ。

高校の同級生だったあいつが、まさか結婚して2児の父だなんて未だに信じられない。

学生時代は僕の方がずっとしっかりしていて、あいつには色々と頼られていたくらいだ。

 

それが今となってはもう何から何まであいつの方が優れているだろう。

そんなあいつの1番凄い所は、今でも「日々勉強だよ。」と貪欲に学ぶ姿勢を変えない所だ。

 

「おめでとう」とメッセージを送ると、すぐ電話がかかってきた。
改めて「おめでとう。」と伝えると、彼は「わりぃ、急に電話して、、いやぁ、、、やっぱ嬉しくてさ、、、もう大号泣だったわ、、、。」とまだ少し涙ぐんだ声で話していた。

 

僕も嬉しくなって「本当に、おおめでとう。」と伝えた。

 

「元気な女の子だ。お前と同じ誕生日ってのが残念だけどな。」とおどけながら彼は言う。

 

「あ、覚えててくれたのか、、ありがとう、
…てか残念てなんだよ!」

「ははは。」

それから数分間くだらないやりとりをしたのち、「そろそろ休憩終わるわ。」と伝えると最後に彼がこう言った。

 

「なぁ、俺たち"もう"33か?違うよな。"まだ"33だよな?」

その言葉には彼なりの激励が含まれているようだった。


「あぁ、"まだまだ"これからだよな。」
僕は力強く答えた。

 

 

18〜19歳くらいの頃、僕は早く大人になりたかった。
元々渋い音楽が好きだった事もあって、自分もそんな音楽が似合う渋い男に憧れたのだ。

しかし、現実は違った。
あの頃の理想とはかけ離れた大人になっていく実感がずっと纏わりついていた。

 

音楽だって、あの頃とちっとも変わっちゃいない。渋さなんかカケラも無く、いつまで経ってもいまいち説得力に欠ける音しか出せなかった。

 

仕事を始めて最初の頃は、ストレス解消がてら休みの日にスタジオに入って練習をする日もあった。だが、その度に気持ちが揺らいでしまう事が辛くていつの間にか行かなくなった。

 

今ならちゃんと弾けるだろうか?

ふとそんな事を思い、仕事帰りにふらっと昔お世話になっていたライブバーに寄った。

 

かなりご無沙汰していたにも関わらず、マスターはあの頃と同じくように「よう、ちっと弾いていけよ。」と言うだけで、それが僕にはたまらなく嬉しかった。


久々に楽器を弾く。思ったように鳴らない。
でも、あの頃欲しかった音のカケラがそこにあるような気がした。

 

失わないように、何度も何度も弾いた。
気がついたら僕は泣いていた。

マスターや他のお客さんはそれを茶化すことなく、黙って聴いていてくれた。

 

するとマスターが言う。
「歳を重ねるってのは、いいよな。」
「笑ったり泣いたりしてよ、顔に幸せなシワを作ってくんだよ。」
「音楽はずっとお前の味方であり続ける。そして、いつだって側にいてくれるものだ。」

 

「そんな風に考えた事、なかったな。」
僕はなんだか気持ちが軽くなった。

翌日、僕はある決意を胸に会社へ向かった。
その手元には手紙のようなものがある。

この物語を生きるのは僕自身だ。
まだまだエンディングは流させない、、流させやしないぞ。

33歳。まだまだこれからだ!

大人になるってきっと素晴らしい!

 

 

 

「いかがでしたでしょうか?」
紳士風の男は最後の物語を語り終え、私に問いました。

「ありがとうございます、、本当にありがとうございました。」

私はひどく感動して、うまく言葉にできませんでした。

 

するとそこに酔っ払いが「おいおい、呑んでるかぁーい?ひっく、、、パーティはここからが本番さ、、ひっく、、、朝まで呑み明かそうぜぇ。」と千鳥足でやってきて乾杯の音頭を取り始めました。

 

「さぁ、みなさん!!今日の素敵な出会いと素晴らしい未来に…カンパーイ!!」

私も紳士風の男も酔っ払いも、その他ここにいる全員が笑顔で乾杯をしました。

 

そして朝になると散り散りに皆去っていき、視界が良くなった事で私も当初の目的地を見つける事ができました。

 

皆に別れを告げ、歩き出します。

 

ここからまた始まっていくんだ。始めていくんだ。

 

 

はい、というわけで長い長い物語を書いてみました。最後まで読めた人いるかな?笑
長文駄文失礼しました。

さて、これはどういう事なのか?

答えは10/2(金)四谷Doppoワンマンライブで!

よろしくお願いします!


LIVE info

10/2(金)四谷Doppo (移転後初)
イシヅヤシンバースデーワンマンLIVE
「新しい風景」
OPEN 19:00/START 19:30
CHARGE ¥3,000+1DRINK

限定20席
配信はありません。

弾き語りとバンドの2部構成です。

より楽しんでいただけるように、それぞれにテーマを設けました!

 

*1部 弾き語り「Cinema」

映画のように。もともとショートムービーを見たようなライブをしたいというコンセプトもあるので、弾き語りらしくしっとりと・・・かつ没頭できるような物語をご用意します!

 

*2部 バンド 「Attraction」

アトラクション。ワクワクするような曲たちを中心に集めてドラムとピアノと歌で時に激しく、時に優しく様々な興奮とドラマをお届けします!

 

ご予約は   yoyaku@doppodoppo.com  までお願い致します。僕に直接ご連絡いただいた方も、再度予約ページをご案内させていただいております。

 

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