イシヅヤシン OFFICIAL BLOG「叙情詩の種」

日々の出来事や物語、歌詞などを書きます。

≪物語≫肯定屋 一気読みver.

 

 

「虚しくないのか?お金払って決まりきった肯定をもらうって…。」私は呆れた口調で目の前にいる男2人を諭すように言った。

 


「それがね、意外と肯定して欲しい人がいるんですよ…ねー、しゅんさん。」20代前半くらいと思しき青年・品川はニッと笑って隣にいる細身の男に相槌を求める。

 


「うん、そうだね。」細身の男は優しげな笑みを含ませて答えた。

「"肯定屋"とひとくちに言っても仕事は色々ですから。」

 


…この男はあまり多くは自分から語る気がないらしい。「例えば…どんな?」渋々私は質問する。

 


少しの間の後、男は答える。

「そうですね…、僕らがやる事は単純に自分に自信がない人の話を聞いて肯定をするだけではなく、高額で雇われた否定屋が荒らした後の始末などもやらせてもらっています。」

 


一見すると病弱そうに見える男だが、彼の言葉には一切のブレがないように思えた。まるで、物語の結末が予め見えているかのような…そんな話し方だ。

 


「否定屋、、、か。」私は聞き返す。

 


「ええ、日本人は特に相対評価が根強い国ですからね、、強い否定がつけられたものにはなかなか手を出せないんです。」

相変わらず落ち着き払った言い回しだった。

 


「だーかーらー、ライバル企業を蹴落とす為とか、自分たちを優位にする為に高い金を払って否定屋を雇うんすよねー、おー、怖っ。」

品川は凍えるようなジェスチャーをして戯けてみせた。

 

私は黙って話を促した。


「そんな否定屋の被害者を少しでも助ける為に我々肯定屋も日夜仕事に励んでいるわけです。」細身の男は"やれやれ"と子供の悪戯に手をやくような言い方で優しく話をした。

 

 

「君たち肯定屋を雇う費用は?」


「お!雇ってくれるんすかー??毎度ありぃー!」と品川が身を乗り出した隣で、やはり変わらず落ち着いた様子の男が続けて答えた。

 


「直接会って話を聞いて肯定をする…という形なら基本的には1h 3,000円+交通費でやらせてもらっています。」

 


「それ以外は?」

 


「最近ではSEO対策としての利用者も増えています。今はネット社会ですから、個人がネットで叩かれた傷を癒す目的以外にも企業やサービスの印象操作のひとつとして利用される方も多くいます。」

 


「あぁ、そうだな、、。」思わず声がこぼれた。

 


私の言葉には特に反応せずに彼は続けて答えた。


「このように施策の痕跡が残るものの場合は金額が少し変わります。食べログの評価や、口コミサイトの記述などはこれに含まれます。」

 

「こういったものですと1つの施策につき1,000円いただく形でやらせてもらっています。」

 


「そーそー、お得じゃないっすか??どうっすか?おっさん!」品川が笑顔で私を見る。

 


「おっさ、、、おい、この礼儀のなってないやつはお前の部下なのか?…しゅん!」

 


「え??しゅんさん、この人知り合いっすか??」品川が男に聞いた。

 


私の名前は渋谷。自慢ではないが大手食品会社に勤めている。そして何を隠そうこの肯定屋の代表、"大崎しゅん"の叔父だ。

 


今日、私がここを訪れた理由はひとつ。肯定屋に会社の印象を改善する施策をお願いするためだった。

どうして専門部署ではない私にこの役が回ってきたのか…この場所に来て甥の顔を見て納得した。

まさか、甥に会社の立て直しを頼む事になるとは…。

 

 

 

「まぁね、昔からよく知ってる人なんだ。」大崎は少し眉を動かし、困ったような顔をして、話を切り出した。

 


「今日はどのようなご用件でしょうか?渋谷さん。」

 


「あぁ、そうだった、ついつい…、、用件を話そう。」

 


「しゅんは我が社の今の状況を知っているか?」

 


おじさんの会社…。

山手食品株式会社。

全国に何十社と支店を持つ大手食品会社だ。

しかし、たしか先月食品に異物混入の噂が流れて、売り上げ・株価共に暴落していたな。

 


そんな事を考えていると、それを見透かしたように渋谷が答える。

 


「社内調査の結果、異物混入は認められず、おそらくライバル企業による否定屋を使った攻撃だろうという事がわかったんだ。」

 


「なるほど。」大崎は全てを理解したようだった。いや、もう既に私がここのドアを開けた瞬間から気づいていたのではないか?

そう思うほど、彼の言葉や素振りには落ち着きを感じた。

 


「用件はわかりました。」

「しかし、山手食品ほどの大企業となるとこちらも相当な労力を使います。」

 


「あぁ、わかっている…費用も納得のいく額を払わせてもらうつもりだ。」

 


「うひょー!すげぇ!さすが大企業っすね!」品川は1人はしゃいでいる。

 


その隣で少し考え込んでいた大崎が口を開いた。「相手もおそらく大手企業ですし、否定屋の力もかなり大きなものでしょう。」

「持久戦になりますが大丈夫ですか?」

 


ずっと優しく余裕のある眼差しをしていた大崎がここにきて初めて鋭い勝負師の目をした。

 


「…無論だ。」

私は力強く答えた。

 

 

 

 

 

 

 

肯定屋としてやる事はシンプルだ。

"手数を打って、味方を増やす。"


これまで多くの人を肯定してきた実績から信頼も多く寄せられていた。

人は恩情というものをなかなか消さない生き物だ。大崎はこれまでの顧客に一斉にメールを送った。

 


「みなさん、出番ですよ。」と。

 

 

 

肯定屋のサービスの面白い所は、一度依頼をして問題が解決したらそれで終了…ではないという所だ。

 


彼らは顧客のことをパーティと呼ぶ。

まるでロールプレイングゲームみたいだ。

 


お金を払い、肯定をしてもらい、さらに味方が増えていく…というシステムを大崎しゅんという男は作り出したのだ。

 


一見すると怪しげな宗教のようにも見える構図だが、汚いお金の行き来はないし強制や強要もない。

ただ単純に「あなたの味方ですよ」と、大きな包容を受ける。

 


ただの言葉や仕組み…と断絶してしまえばそれまでだが、この形は多くの人達の心を掴んだ。

 


人は誰だって味方が欲しい。

どんなに自分が正しいという自信があっても、1人だけではいつか押し潰されてしまう。

そんな時に助けてくれるのは味方だ。

 


肯定屋の実態はもしかしたら"味方屋"なのかもしれない。

 


「ひとまずパーティの皆んなには声をかけました。おそらく5,000人は動いてくれるかと思います。」

 


「ご、5,000人??そんなに多くの人が…」

 


「彼らはエキストラでもなければ、アルバイトでもないのでお金は発生しません。みんな自分の意志で、心意気で動いてくれます。」

 


「そ、そんな事が可能なのか…。」私は唖然として開いた口が塞がらなかった。

 


「みんな、味方が欲しいんですよ。」

「でも、この世の中自分以外は全員敵に思えてしまう事もある…それこそが1番の恐怖です。」

 


「そーそー、俺も昔バカやって周りに誰もいなくなった時、、歩く人みんなが敵に見えたなー。。でも、それを救ってくれたのがしゅんさんであり、パーティのみんなっす!」

品川は少し照れ臭そうに話した。

 


「人は、それぞれ違うのにどこか擦り合わせようとする所があります。"みんな違う"と理解しつつも、違う事を認めるのには勇気がいりますからね。」

「だったら、それをまるっと包み込んで背中を押せる…そんな仕事があってもいいんじゃないかと思ったんです。」

 


すると品川が割って入る。

「もーちーろーんー、犯罪とかあぶないものはアウトっすよー!それは味方しないっす!」

 


「そうだね。…でも、その悪い事をしっかりと反省する人の味方にはなります。どんなにマイノリティであってもね。」

 


私はこれは言うべきではない…と思いつつも「まるで、慈善事業だな。」と言ってしまった。

 


大崎はまた優しく笑って答える。

「えぇ、よく言われます。」

「でも、ちゃんとお金はいただくんですよ。」「その方が気持ち悪くないでしょ?」

 


彼の言葉には清々しさがあった。

だからだろうか、不思議と彼の放つ一言一言が私の心の芯まで届くように感じた。

 


「さぁ、では早速仕掛けますよ、渋谷さん!」大崎はまた勝負師の顔つきになった。

 

 

 


「私は何をすればいい?」大崎に聞いた。


「渋谷さんなら、どうしますか?」大崎は質問に質問で返す。


「そ、そうだな…まず、単純だが"異物混入は嘘だった" "根も葉もない噂"という事を主張するな。」


「はいダメー!おっさん全然ダメー!」品川がからかうように横入りする。


「こらこら品川くん、僕たちは肯定屋だろ?いきなり否定は良くないよ。」「それに君も最初は同じような事を言ってたろ?」大崎が品川を優しく諭したあとで続けた。


「渋谷さんの仰る事は正論です。」

「しかし、正論だけでは人の心は動かないんです。」

 


「じゃ、じゃあどうすれば…」

 

 

 

「今、世間的に大衆派は否定する方ですよね?なので、まずは大衆の味方になります。」

 


「は??君たちも一緒になって我が社を叩くのか??なんで!!」

 

 

 

「人は自分と真逆の意見をなかなか受け入れられません…どんなに正しいと気づけたとしても、マイノリティになるのが怖くて受け入れられないんです。」

「なので、まずはその人たちの味方になった上で、徐々に風向きを変えていきます。」

 


「そんなうまくいくものなのか、、?」

 


「大衆派っていうのはさー、結局意志なんてあるようでない事がほとんどなんだよなー。」「みんながこうだから自分もこう!みたいなさー。」品川が少し淋しそうに言った。

 


なるほど、一理あるか…。私は心の中で納得した。

「しかし、それならばその5,000人の力を借りて一気に肯定をしてこっちが大衆派になればいいんじゃないのか?なにもそんな周りくどいことしなくても!」

 


「うわー、おっさん…女にモテないでしょ…。」品川がドン引き。。といったような表情をした。

 


「な、なに!?なんでそうなるんだ!」私は慌てて言い返した。

 


まぁまぁ、、と大崎がなだめる。

 


「渋谷さんが言うそのやり方も決して間違いではありません。」

ほら、そうだろう?と品川に一瞥をくれる。

「ただ…」

 


「それだと大きな力が裏で働いているな…と気づく人も多く出てきますし、人は劣勢になっているものが徐々に評価を覆していく所にドラマを感じるんですよ。」

 


「そーゆー事!女と同じでさ、いきなり自分色に染めてやる!ってんじゃなくて、徐々に心を開かせる…って、、わかんないか…おっさんには。」

 


「お前、仮にも年上に向かってなんだその態度は!!私にだって妻と子供が…」痛い所をつかれた事で私は逆上した。

 


それでも大崎は一切動じず、さっきと変わらないトーンで「品川くん、肯定屋があまり依頼主を虐めないであげてくれ。」と笑顔で頼んだ。

 


「話を戻しますが、やはりまずは大衆派の味方となって、地道に少しずつこちらを大衆派にしていく…というのが得策だと思います。」

「その間に別の案件も並行しておこなっていくので必然的にパーティも増えますから、1ヶ月もすればかなり有利に戦えると思いますよ。」

 

 

私は暫く吟味した結果、彼の考えに乗ることにした。

「費用はどれくらいになるだろうか?」

これだけの時間と人が動く仕事だ。かなりの高額になるに違いない。

 


大崎は少し考え「そうですね、2パターンの提案をさせてください。」

 


「2パターン?どういうことだ?」私は聞き返す。

 


「まず、ひとつめのパターンは単純にかかる時間と労力を計算して算出した費用をご負担いただく形です。ざっくりと見積もって、、そうですね、、80万〜100万円ってところでしょうか。」

 


「なるほど、、確かにこれだけの仕事だ、それくらいは必要だろう。」私はおそらく数百万という費用が必要になると考えていたため、さほど驚かなかった。寧ろ安いとさえ感じたほどだ。

 


ゴクリと唾を飲み込み、私は「もうひとつのパターンを聞こう。」と促した。おそらくもう一つのパターンがメインだろう。さらに高額になるかわりにもっと効果的な施策があるに違いない…。

 

 

 

「もうひとつのパターンは、御社の社員全員が肯定屋のパーティになってくれるのであれば費用は¥20,000で請け負うというものです。」

 


「に、2万円だと??たったそれだけでいいのか??」

 


「えぇ、先ほども話したように動いてくれるパーティの皆んなとは雇用関係ではないのでお金は発生しません。」

「僕と品川くんはかなり動きますが、まぁ人件費や諸経費を賄えれば良いので1人あたり1万円という計算です。」

 


「俺はー、もう少し貰いたいんすけどねー、、、、。」品川はぶつぶつと言いながらふてくされている。

 


「ちなみに、、、社員全員がパーティとなる事にデメリットはあるのか?」聞くべきか迷ったが、迷うくらいなら聞いてしまえと思った。

 


「そうですね、我々のパーティは強要は一切ありません。」「ただし、仲間であるという事…そして皆さんの味方がこれだけいる…という事は理解しておいて欲しいですね。」

「もちろん、入会費や年会費なんかもありませんし、マルチ商法のようなパーティ内の格差もありません。」

 


「まー、あれだぜ?この安さでリスクもないってーのが怖いっていうならさ、金銭面をもう少し上げてもいいんだぜ??」品川は親指と人差し指をくっつけてお金のジェスチャーをした。

 


「お金ではない…という事か?」

私は品川を無視し、大崎に答えを求めるように言った。

 


「もちろん、お金は大事です。それで価値を計るものもたくさんあります。」

 

 

 

「でも、それだけじゃないと信じたい…と?」私は聞き返す。

 


大崎は少し考え込んでから再び話し始めた。

「僕は正直どちらでも良いと思っています。人とお金を天秤にかけて、お金を選ぶ企業や人からはお金をもらうし、人を選ぶ所ならそういう対応をします。」

「どちらが良い・悪いではないので、どちらを選んでも変わらず誠実に対応させてもらいますよ。ただ…」

途中で言いかけてやめる。

 

「ただ…?」私は気になってその続きを促した。

 

大崎は少しの間の後「…いえ、今の時代において価値を計るものはお金だけではないなと思うんです。」

 

「ほう、、、というと?」

私は古い人間なのかもしれない。労働の対価はお金であるべきだし、人を動かすのもやはりお金だと思っている。

 

「信頼や繋がり…ですかね。」

大崎は恥ずかしそうに、しかしはっきりと答えた。

 

「信頼…。」

正直私にはそれが大事なのはわかるが、お金よりも価値があるものには思えなかった。

 

しかし、目の前のこの男は確かにそれを体現していた。

 

 

しゅん…最後に会ったのは彼が20歳になった頃だったか。病弱そうで自分の主張なんてまるでないような印象の子だった。

故に、心配だった。彼はこの世の中でやっていけるのかと。

 


要らぬ心配だったようだ。

こんなにも立派にたくましく自分の意見を持って生きている。

 

 

 

「ナツミ…いや、お母さんは元気か?」

「えぇ、相変わらずですよ。」

 


実際に口に出したわけではないが、目を見てそんな会話をした感覚だった。

 

 

 

 

「なるほどな、、わかった!では、、、、、、、、、我が社の社員一同をパーティに入れてくれ!しゅんが言う、その信頼や繋がりとやらを体感してみたくなったよ。」

 


「かしこまりました。必ずイメージを復活させましょう。」

 


不思議と晴れやかな気分だった。

きっとうまくいく…この男には不思議な説得力と魅力がある。

 


「ちなみに、、、こんな感じのやり方で売り上げはちゃんと捻出できているのか?」純粋な興味だった。こんなやり方でやっていけるのか…?と。

 


「ありがたい事に依頼料だけでもなんとかやっていけるだけの費用はいただいていますし、僕らの考えに賛同して多めに払いたいとおっしゃってくださる方もいるんです。」

 

「それだけ今この世の中が、肯定される事や味方になってもらう事を求めているのでしょうね。」

 


「僕ら2人には多すぎるくらいなので、余ったお金はもしもの時の為に貯蓄しています。」

 


「いやいや、しゅんさん!この前、北の方でおっきめな災害があった時全額寄付しちゃったじゃないっすかー!」

 


「あぁ、そうだったね…じゃあ今は貯蓄はありません。」

 


「な、なるほど…。」

だ、大丈夫だろうか…彼に任せて。。


ここにきて急に私は不安を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

この前まで薄手のコートでも暑いくらいだったのに、今では厚手のコートでも少し寒い。

 


季節というのはやはり巡っていくのだな…と当たり前な感想を抱きながら私は大崎しゅんのいる「肯定屋」のオフィスへ向かっていた。

 

 

 

あれから早2ヶ月が経った。

彼の思惑通り1ヶ月を過ぎた頃には我が社の世間における評判は大きく変わっていた。

 


大物俳優のスキャンダルがあった事も味方して、世間の興味や批判対象はそちらに移っていった。

 


元々取り扱う食品の味はもちろん、衛生管理にも絶対の自信があったため、あえて否定ばかりせず「衛生面の改善」をアピールしたのも良い結果に繋がった。これもしゅんのアドバイスだった。

 


「渋谷さん、人は否定をするものには否定で返す傾向があるんですよ。だから、否定からは何も解決しません。否定せず、でも異物混入を肯定するでもなく、ただひたすら衛生管理の質の高さをアピールする方がいいですよ。」

 


しゅんの言った通りだった。特に否定も肯定もしていないが、わずか1ヶ月足らずで我が社の世間における認識は"過去に間違いを起こしたが、見事に復活した大企業"という認識になった。

 


さらにここからのアフターケアが凄かった。

5,000人のパーティが徐々に次の動きをしだしたのだ。「どうやら異物混入はデマだったらしい」「ライバル企業のイメージダウン戦略か?」「山手食品は衛生管理の極みだよ」このような口コミが徐々に拡まっていった。

 


凄い…。

気がついたら私はスマートフォンの画面を眺めながら唸っていた。

 


確かに、彼らの言う通りだった。

あの時、あのタイミングでこのような口コミがあってもおそらく今のような結果にはなっていない。

少しずつ、我が社に対する評価が変わった上で初めて意味がある口コミだったのだ。

 


そこからみるみるうちに我が社の評判は戻り…それどころか以前よりも増していった。

 


これが肯定屋の力…。

 


エレベーターに乗り、オフィスがあるフロアに着いた。

インターフォンを鳴らすと品川が出てきた。

 


「あ、おっさーん、、、じゃなかった、渋谷さーん!お久しぶりっす!いい感じっすね、会社の評判!」

 


「あぁ、お陰様で。本当になんとお礼を言ったらいいか…。…しゅん…ええと、大崎くんはいるかい?」私はお礼を言ったのちにしゅんを呼んでくるよう頼んだ。

 


「はーい、お待ち下さい!しゅんさーん、しゅんさーん!」

 


オフィス内に品川の声が響き渡る。

 


「どうしたんだい?品川くん。…おや、渋谷さん。」

相変わらず病弱そうな風貌だが不思議な包容力を纏って大崎しゅんが出てきた。

 


「しゅん、本当にありがとう。おかげで我が社は持ち直せた。それどころか以前より業績も上がってるんだ。」

私は心からの感謝を伝えた。

 


「それはそれは…。良かったです。パーティのみんなもとても喜んでいますよ。」

しゅんも嬉しそうに答えた。

 


「ってゆーかー、もう渋谷さんも、渋谷さんの会社の人もみんなパーティじゃないっすかー!」品川が割って入る。

 


「あぁ、そうだったね。これからもよろしくお願いします、渋谷さん。今度御社にもご挨拶に行かせていただきますね。」しゅんは軽くお辞儀をした。

 


「もちろんだとも!ぜひ、社長や社員に紹介させてくれ。本当にお世話になった、ありがとう!」

私は興奮しながら答えた。

 


「いえいえ。今日はわざわざそれの為に?」

しゅんに言われハッと用件を思い出した。

 


「いや、今日はそれだけじゃなくまた別の案件を…」私は少しバツが悪そうな話し方で語尾を濁した。

 


しかししゅんは先ほどと変わらないトーンで「お話を聞かせていただけますか?」と微笑みながら言った。

 

 

 

「実は、今度社長が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


大崎しゅんは相変わらず優しく包み込むように話を聞いている。

 


隣では品川が「おもしろそうっすねー!」と茶々を入れる。

 


私は真剣にお願いをする。

 

 

 

 

 

 

 


"肯定屋"

元々は"否定屋"の対策として生まれたサービス。人々の言葉や考え、人間性…あらゆるものを肯定し、優しく包む。

またの名を"味方屋"ともいい、言葉の通り全力で依頼主の味方をする。

 


人はひとりだと生きていけない。

人は否定されるのが怖い。

人は強くあろうとするが、その強さを理解するのが下手くそだ。

人は肯定されると自信を持てる。

 


肯定屋の仕事は甘やかす事ではない。

そっと寄り添って味方になって肯定をする。

 


そして、救われた全ての人が家族のように固い絆で結ばれる。それを彼らはパーティと呼ぶ。

 


1997年1月に創立し、わずか20年で総パーティ数330万6千人。

今日も彼らは誰かの味方になって肯定している。

 


君も悩んだり心が疲れたら行ってみるといい。

今は大崎しゅんは引退をして後継者が継いでいるそうだ。

 


どうやらしゅんは今はアーティストとして歌手活動を行なっているそうだ。

 


彼の事だ、誰かの味方になれる音楽を歌っているのかもしれない。

 


今度時間を作って聴きに行ってみよう。

 


たしかアーティストネームは…

 


イシ…イシヅヤ…なんだったかな、、珍しい名前が覚えにくくなった。私ももう歳だな。

 

 

 

fin

 

あとがき

長文駄文を読んでいただきありがとうございます。

"肯定"も"否定"も生きていれば当たり前に纏わりついてくるものです。

この物語はフィクションですが、僕はいつでも誰かの味方でいたいと思っています。

綺麗事なのかもしれませんが、本当にそう思っています。大きな別れを経験したとき、自分はもうこの世界でひとりなのかもしれない…と感じた事がありました。その時味方になってくれた人がいなかったら、色々な事を諦めていたかもしれません。

 

だから、できたらみんなも誰かの味方になってあげてください。自分に余裕がある時だけて構いません。余裕がない時はしっかり自分を守って、周りの人にも頼ってくださいね。

 

僕が音楽をやる意義…なんてものはそんなかっこいいものではないし、ただ生きているのと同じで呼吸をするように音楽をしていきたいだけです。作る事、表現する事が生きがいなので。

それはもしかしたら凄く冷たく、淋しいものなのかもしれません。

 

それでも、僕が作る音楽や言葉、音色で誰かの味方になる事ができたら幸いです。もっともっと色んな人に声が届くようにこれからも頑張っていきます。

 

誰かに肯定して欲しい・味方になって欲しい…という人はぜひ僕にご依頼くださいね(笑)。

パーティになりましょう。

 

 読んでくれてありがとう!