イシヅヤシン OFFICIAL BLOG「叙情詩の種」

日々の出来事や物語、歌詞などを書きます。

【物語】売れ残ったクリスマスケーキ

クリボッチの男


今年は新型のウィルスの大流行により、クリスマスに外で浮かれ騒ぐ連中が少なかった。
しかし、僕の日常が何か変わったかというとそんな事はなく、今年も例年通りひとりぼっちで淋しいクリスマスを迎えた。

唯一したクリスマスらしい事・・・といえば、コンビニに売っていたチキンを食べたくらいで、あとは仕事の忙しさを盾に自分を正当化して過ごしていた。

ー12月26日0時0分。
ついに、日付が変わってしまった。
今年も僕は売れ残った。売れ残ったものは総じて経年劣化によって少しづつ質が下がる。
開封だろうと、、、だ。
僕はもう何年もその道を辿っているので、身も心もすっかり劣化してしまった。

いつも通り軽く呑んでから寝ようとしたが、タイミング悪く酒を切らしていた。
仕方なく重い腰を上げて近所のコンビニに向かう。

「おー寒っ。」
当然だが、厚手のダウンジャケットを着ていても冬が夏になることはない。
吐く息の白さが数年前にやめたタバコの煙のようで、少し懐かしく思えた。

コンビニに着き、酒をいくつか買い物カゴに入れる。
すると次の瞬間、隣の棚に目を惹かれた。

クリスマスケーキが1個だけ売れ残っていたのだ。

「このケーキはどうなるのかな?」
ふとそんな事を思った。

もしかしたらこの後誰かが買っていくかもしれないし、店員があとで食べるかもしれないし、廃棄するのかもしれない。

色々な物語が瞬時に頭に浮かんだが、気がついたら僕はそのケーキを買い物カゴの中に入れていた。なんとなくこのままスルーすることができなかったのだ。
自分と同じように劣化してくのを待つだけの辛さをこのクリスマスケーキに感じたのかもしれない。とにかくほうっておけなかったのだ。

レジに並ぶ。
すると急に恥しさが込み上げてきた。「今さら一人でケーキなんか買って、、淋しい奴だって思われるかな?」なんていらぬ妄想が頭を過ぎる。

もちろん店員さんはなんの反応もなく、淡々とレジ業務をこなす。
それでも、やっぱり恥ずかしくて店員さんの顔を見る事が出来なかった。

会計を終え、出口に向かうと「ありがとうございました。」
という店員さんの声が聞こえた。

いつも通りの、マニュアルに沿っただけのお礼なのかもしれない。いや、九分九厘そうだろう。しかし、その時僕には「売れ残ってしまっていたクリスマスケーキの淋しい物語を救ってくれてありがとう。」と言ってもらえたような気がして、気恥ずかしさの中にもなにか暖かな感情が芽生えたのを感じた。恥ずかしかったが、軽く会釈をして帰った。

少し遅くなっちゃったけど、おいしくいただこう。
「メリークリスマス・・・うわ、甘っ。」




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コンビニ店員


「いらっしゃいませー。」
「1,280円になります」
「ありがとうございましたー。」

コンビニの女性店員は少しイライラしていた。
本来ならば彼氏と過ごすはずだったクリスマスにまさかのタイミングでフラれ、バイトをするハメになったからだ。

「もう、、、本当、、、最悪。。」
付き合ってまだ半年の彼だったが、先日彼の浮気が発覚した。

しかも相手が本命で、私の方がその浮気相手だったのだ。
自慢じゃないが私は男運が悪い。

「はぁ。。」っとため息を吐きながら品出しをしていると、一つだけ売れ残っているクリスマスケーキを見つけた。

「あぁ、、君もフラれたのか。可哀想に。。大丈夫、誰にも買ってもらえなかったら私が買ってあげるからね。」と心の中で呟いてレジに戻った。

日付が変わり暫くしたころ、男性が一人来店した。
「この人はクリスマスケーキ・・・って感じじゃないよなぁ。」と勝手に決めつけていたのだが、レジに出された買い物カゴの中にはあのケーキが入っている。

「嘘・・・」思わず声が出そうになったが必死に抑え、淡々とレジをこなした。
しかし、私はこのケーキに自分を重ねていたのか、選んでもらえたことがとっても嬉しくて、なんだか暖かい気持ちになった。

男性が店を出るタイミングで、いつものマニュアルとしてではなく、心から「ありがとうございました」と言った。

男性が軽く会釈をしてくれたような気もしたが、きっと気のせいだろう。
それでも、いいんだ。

「メリークリスマス・・・いい夜を!」




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「売れ残ったクリスマスケーキ」

「ちょっと、、、なんなの?私が売れ残るなんてマジありえないんだけど!」
コンビニに並べられたクリスマスケーキはご立腹だ。
どうやら他のケーキは売れていったのに自分だけ売れ残ったのが相当不服らしい。
別に形が崩れているわけでもないし、他のケーキと比べて変わっているところもない。

しかし、結局売れ残ったままクリスマスが終了した。
「あの店員の並べ方が悪いのね!マジ最悪!もういいわ、、こうなったら私はもう廃棄処分でもなんでも受け入れるわよ!正し来年覚えてなさいよ!絶対一番に売れてやるんだから!」

その時ティロリロリーン♪と入店のチャイムが鳴った。
こんな時間でも客がくるのが24時間営業しているコンビニの常だ。
無精髭を生やした冴えない男が酒を買いに来たようだ。

「あーぁ、この男はダメだわ。絶対クリボッチだったわね。幸せオーラが微塵も出てないもの。」

するとその男の手がケーキに伸びる。
「え?ちょっと嘘でしょ?やめて!こんな奴に選ばれるくらいなら私は廃棄でいいの!嫌よ、私こんな。。。惨めでしかないじゃない!」

そんなケーキの必死な抵抗は男に聞こえるわけもなく、あっさりお買い上げとなった。

男がコンビニから出ていく間際、「ありがとうございました。」という店員の声が響いた。

「この店員、、、!覚えとけよ!絶対許さないからな!!あと男!髭剃れ!!」




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全部が全部良同時進行で良い物語が進むとは限らないですね(笑)。
今回は売れ残ったクリスマスケーキをテーマに3つの短い物語を書いてみました。
僕はロマンチストなので、「こうなってくれてたらいいなぁ、、素敵だなぁ」って願望が強いんだけど、やっぱりリアルな部分もそれはそれで好きで。

今回はあえて一番ファンタジーな部分(クリスマスケーキに感情がある)に現実感(全然ハッピーエンドじゃない)を入れてみました。

なかなかブログ更新してなくてすみません!
また書きます!