イシヅヤシン OFFICIAL BLOG「叙情詩の種」

日々の出来事や物語、歌詞などを書きます。

小説シリーズ第2弾! ドワーフ

あれからもう1ヶ月になる。お前はまだ眠っている。

俺は今日もいつも通り起きて仕事をして帰ってきて眠る・・・その繰り返しだ。
ただひとつ、その世界にお前の体温だけが失われたままで。




3ヶ月前。

俺は工事現場で働いている。
トンネルを掘ったり、道路を広くしたり、橋を造ったり。
国の税金はもっと色んなところに使えばいいのにな・・・なんて思うこともあるが、そうなったら俺の仕事もなくなるので口にはしない。

肉体労働なので体はキツいし、自由・・・とまではいかないが、まぁ気ままに一人で暮らしていた。

そんなある日、お前は突然やってきた。
俺の住むアパートの隣に引っ越してきたようで、挨拶をしにきたのだ。
今どき引っ越しの挨拶をきちんとすることもそうだが、なによりこんなボロアパートに若い女性一人で住むことに感心した。

それと同時になにか訳ありなのか?とも思った。ヤバイ筋の人に追われているとか、本当はお金持ちだけど、庶民の気持ちを理解するためにここで生活することを義務付けられている・・・とか。

しかし、その実態はただの学生だった。所謂苦学生というやつだろう。進学したはいいが、お世辞にも裕福とは言えず学費と家賃をなんとかぎりぎり払っている・・・といった感じだった。

「みんな色々あって大変だな。」なんて他人だから言える薄っぺらい同情にも似た言葉が浮かんだが、彼女はいつでも幸せそうに笑っていた。
それこそ生活の大変さなんて微塵も感じないほどに。

顔を合わせると毎度挨拶をしてくれるので、いつしか俺の生活の中での唯一といっていいほどの癒しになっていた。時々、本当にお金がなくて困っている時は「あの、、、ご飯を少し分けてもらえませんか?」なんて本気でお願いにくることもあったので、なんとなくっほっとけない妹のようにも感じていたのかもしれない。

あとから知ったのだが、その時はアルバイト先の飲食店が衛生問題を起こし、働けなかったのだそうだ。そのため3日間飲まず食わずで過ごしたが、流石に限界を感じ訪ねてきたのだそうだ。

しかし、そんな極限の状態であっても彼女に悲壮感などは一切漂っておらず、むしろ兄に甘える妹そのもの・・・といった様子だった。

彼女とは10以上も歳が離れていることもあって、これが恋愛感情だと認識するのには時間がかかった。特に交際をしたいとか、進展を求めていたわけでもなかったのもその原因のひとつだろう。本当にただ、癒されていたのだ。屈託ないその笑顔と、明るい声に。


彼女と交流をするようになってから、俺の生活は充実してきた。
何も変わらない、いつも通りの仕事でも彼女という癒しがあるだけで不思議とやる気が出た。周りからもそのやる気を評価されだし、給料も少しだけだが上がった。

「人生において一番大事なのは癒しに違いないな。」と誰も見ていないであろう自身のSNSに投稿をしてしまうほどだった。

「少しだけ給料上がったから、これであいつになんかうまいものでも食わせてやるか。」
浮かれなが俺は家に帰った。
シャワーを浴び、着替えて隣の部屋のインターフォンを鳴らす。

・・・


反応がない。
「おかしいな、いつもならこの時間は学校は終わっているはずなのに。」念のためノックをしてみたがやはり返事はなかった。

まぁ、また今度でいいか。と思い自分の部屋に帰った。
すると、隣の部屋からドスンと鈍い物音がした。

嫌な予感がした俺は慌てて隣の部屋のインターフォンを押す。
「バカか、俺は!インターフォンに反応できないってことだろ!」
我に返り俺はドアを開けた。鍵はかかっていなかった。

俺の嫌な予感は残念ながら的中した。部屋の奥で彼女が倒れている。
すぐに救急車を呼び、救急隊員の指示に従い今の自分にできる限りの応急処置を施した。

意識はなく、呼吸も浅い。
救急車が到着するまでの約5分間が1時間にも感じるほど長く思えた。

俺も同乗して病院へ向かった。
治療を終え、医師から家族の方に話があると言われた時俺は全てを覚悟し「婚約者です」と精一杯の嘘をついた。

医師からの話だと、非常に危ない状況のようだった。昏睡状態というやつらしく、いつ目が覚めるかわからないと。原因は日常的な栄養失調と、過労だそうだ。

なんてことだ・・・もっと俺が気にかけていれば。
いつだってご飯くらい食べさせてやれたのに。
俺はただ自分を責めることしかできなかった。

数日が経過した頃、俺は彼女の部屋にあった手帳をの中から実家の連絡先を見つけ、連絡をとった。しばらくして両親が病院へやってきて「色々とありがとうございます。あとのことは大丈夫ですから。」と看病の交代を促された。
彼女の両親もお世辞にも裕福とは思えない風貌だった。ヨレヨレの服に、ボロボロの靴。それでも慌てて飛んできたのだというのがよくわかった。


俺は彼女の両親に促されるまま病室を後にした。
「キスしたら目が覚めるかな」なんて気持ち悪い妄想をしてしまうほど、俺の精神状態もぎりぎりだった。少し休もう・・・そう思って家に帰り仮眠をとることにした。

しかし、身体はこんなにも疲れているのにちっとも眠れる気がしなかった。
目を閉じれば彼女の笑顔が浮かぶのだ。
「頼む、助かってくれ。。。。」ただそれだけを願うことしかできなかった。


それが1ヶ月前の出来事。
あっという間に日々は流れた。俺はいつも通り起きて仕事をして帰ってきて眠る・・・その繰り返しの生活に戻っていた。

ただひとつ、追加されたのが毎日の病院へ彼女のお見舞いに立ち寄ることだった。
最初は俺に対して懐疑的な反応を見せていた彼女の両親とも、いつの間にか打ち解けていた。

それから数日たったある日、「ユキ!」と大きな声で彼女を呼ぶ声がした。
初めて見る男性だ。依然眠り続けている彼女に向かって彼女の名前を叫んでいた。
「ユキ!俺だ!目を覚ませよ!」と呼びかけている。

彼女の名前は「白石雪姫(しらいしゆき)」という。「まるで白雪姫みたいな名前だなぁ。」というのが最初の印象だった。
実際そう感じる人も多いのだろう、彼女の学校でのあだ名は「姫(ひめ)」だと聞いたことがあった。

ちなみに俺は彼女のことは「白石さん」と呼んでいた。

今目の前にいる男性は彼女のことを名字でもあだ名でもなく名前で呼んでいる。
兄だろうか・・・?と思ったが、両親も知らない様子だった。

しばらくそのやりとりを見ていた。正確には“見入ってしまっていた”というのが正しい表現だろう。まるで映画のワンシーンのように見えたのだ。
そして、次の瞬間俺は自分の目を疑った。

なんと、その男はなんの躊躇もなく彼女にキスをしたのだ。
まさに映画そのものだった。
呆気にとられた俺と、彼女の両親は言葉が出なかった。

少しの間のあと彼はこちらを振り返り軽く頭を下げたのちに話し始めた。
「雪姫さんとお付き合いをさせていただいています、周防次郎(すおうじろう)と申します。」「来るのが遅くなりすみません、アメリカに留学していたため来るのに時間がかかってしまいました。」

お付き合い?アメリカ?留学?
すおうじろう?す・・・おうじ・・・ろう?
王子??

色々なことが頭の中を駆け巡ったのち、俺の口から出た言葉は「どうも、近所のものです。」だけだった。

王子様は紳士な対応で「ではあなたが、ユキを病院に・・・ありがとうございます。」
あまりに品のある素振りに俺はすっかり呑まれ「いえ、、」というのが精一杯だった。

彼女の両親も「いきなりキスするとは何事か!」などとありがちな言葉を吐くこともなく軽く挨拶をするだけだった。

すると次の瞬間奇跡が起きた。
なんと昏睡状態だった彼女が目を覚ましたのだ。

俺も彼女の両親も飛び跳ねて喜んだ。
「無事でよかった、、本当に無事でよかった。。」俺は溢れる涙を止めようとはしなかった。彼女の両親も同じ気持ちだったに違いない

言葉にならないような声でひたすら「ゆき、、ゆき、、、」と彼女の名前を呼んでいた。

その中でただ一人、王子様はこうなることがわかっていたかのように冷静にナースコールを押し、医師を呼んだ。

医師がやってきて診察をし、「もう大丈夫です、奇跡ですよこれは。」と告げた。

雪姫は真っ先に次郎の名前を呼んだ。「アメリカから来てくれたの?心配かけてごめんね、、ありがとう。」
はっきりとは聞き取れなかったが大体そんな感じのことを言っていたのだろう。

俺はその場を静かに離れ、家に帰った。


家について腰を下ろす。
ふぅ。っと小さなため息をついた。

「よかった、、、本当に、、、よかった。」
色んな想いが混ざって、正体不明の感情のまま俺は泣いた。



それからしばらくして、彼女は無事退院したらしい。
アパートは引き払い、大学も休学し、しばらくは実家で静養するのだそうだ。

俺はというと、何も変わらない。
いつも通り起きて働いて帰ってきて眠るだけだ。
ただ当たり前にあった彼女の笑顔がもうここにはない。

少し昔の生活に戻っただけなのに、どうしてこうも悲しく切ないのだろう。
人は欲張りな生き物だ。

最初からわかっていたことじゃないか。
彼女とは初めからどうこうなる関係じゃなかった。
ただ笑ってくれていればそれでよかったんだから。

でも、こんな俺でも夢をみる自由くらいはあるはずだ。
雪姫、俺はお前の王子様になりたかったよ。

嘘偽りなく、俺はお前を・・・。




・・・その先の言葉は飲み込んだ。
必死になって飲み込んだ。


今日もいい天気だ。
給料も上がったことだし、ビールでも買って帰ろう。


fin


はい、というわけで曲を小説化シリーズ第二弾は「ドワーフ」をお届けしました!
いやぁ、、、難しかった(笑)!
この曲は19歳くらいの頃に書いたんだけど、ファンタジーとリアルを綯い交ぜにした物語なので、小説にした時にどっちのバランスに振るかっていう所が一番悩みました。
結局リアルの方に振ってみたんだけど、いかがでしたか?
曲だけ聞くとファンタジー要素も強いので、ちょっと違和感があるかもしれません。
まぁ、これはこれとして新たな切り口として読んでもらえたら幸いです。
切ない失恋物語だけど、喜びと暖かさを兼ね備えている。そのバランスの難しさが人間らしくて気に入ってます。

なんとなくこの主人公のドワーフのモデルはおこりんぼです。

f:id:ishizuyashin:20200202010250j:plain

彼が一番素直じゃなくて、でも一番白雪姫を愛しているように思えるので。
ツンデレってやつですね(笑)。愛くるしくて大好きなキャラクターです。



【ピアノ弾き語り】ドワーフ/イシヅヤシン

曲も聴いてくださいね!

 

ドワーフ

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では、また!

Thank you bye-bye!
 

-NEXT LIVE- 

2/9(日)池袋FIELD
「be On!」
OPEN 18:00/START 18:30
CHARGE ¥1,500+1DRINK

2/16(日)四谷Doppo
Doppo presents
OPEN18:30/START19:00 
CHARGE ¥2,500+1DRINK¥600
ACT:アメフラヘヴィ/Caorio/イシヅヤシン 


2/22(土)愛知県 足助の鍛冶屋さん
「うたれんのインディーズチャンネル!」(pitch FM83.8内)連動企画LIVE! 『FRIENDS Special 〜僕らの音楽〜Vol.31』(83vs87)
OPEN18:00 /START 18:30
CHARGE ¥2,000 (+オーダー別)
ACT:相良浩司/イシヅヤシン/田森理生/うたれん

☆もちろんやります、コラボステージ即興ソング☆  
「うたれんのインディーズチャンネル!」名物コーナー 「唄って!即興ソング!」を、 今回もステージでお届けします! ご来場の皆さんに書いて頂いたテーマから2つ選び、 それぞれのテーマに合わせて その場で即興ソングを披露!!! テーマが採用された方には、 「足助のかじやさん」で翌日から使える ¥500サービスチケット(有効期限4カ月)を プレゼント!!! 


3/6(金)四谷Doppo

3/13(金)名古屋 吹上 鑪ら場
マツモトコウジワンマンライブ
「点と線」
OPEN 19:00/START 19:30
CHARGE ¥2,500+1DRINK
※イシヅヤシンはゲストアクトとして出演させていただきます!

3/14(土)神戸 カフェ・ド・ジェーム


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17.live


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【ピアノ弾き語り】優しい雨/イシヅヤシン


【歌詞付き】羽を無くした鳥/イシヅヤシン

 

 

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